こんにちは、草男です。
福井で農業を学びながら、水耕栽培にも挑戦しています。
最近、改めて考えるのが「なぜ日本の農業は儲からないのか?」という問題。
農業には高収入の農家さんも確かにいますが、全体として見ると、農業従事者の平均年収は日本全体の平均年収と比べて大きく下回っているのが現実です。
努力して作っても、なかなか利益が出ない。体力勝負で、しかも収入が不安定。これじゃ若者が農業に夢を持てません。
でもその根っこには、「作ってから売る」という、ビジネスとしてはかなり特殊な構造があると思うんです。
1. 「作ってから売る農業」の構造的限界
日本の農業の多くは「プロダクトアウト型」と言われる、作る側の都合を起点としたスタイルです。
つまり「作れるものを作って、それをどう売るかをあとから考える」という順番。
実際、多くの農家さんが「とりあえず作って、あとはJAや市場に出荷する」という方法を取っています。
確かにそれで出荷はできるし、お金も入ります。ですが――
- 価格は市場任せ
- 豊作だと値崩れし、赤字になることも
- 販路が固定されず、計画的に経営できない
こうした問題が積み重なり、「農業は儲からない」「ギャンブルだ」とさえ言われてしまうんです。
卸売市場に頼りきるリスク
日本ではいまだに、青果物流通の約8割が卸売市場経由です。
これは、安定供給という意味では一定のメリットがある一方で、市場価格に経営が振り回されるという大きなリスクを抱えています。
たとえば、農家がいくら努力して品質の良いキャベツを出荷しても、市場が飽和していれば価格は容赦なく下がる。
逆に不足していれば跳ね上がる。つまり、農家は自分の努力ではコントロールできない部分に収益を委ねていることになります。
これは、ビジネスとして考えたとき、非常に危うい構造です。
工場を持ち、社員を雇い、設備投資して農業法人を作っても、市場価格一つで経営が傾いてしまう。
規模拡大しても、「売る仕組み」が変わらない限り、そのリスクは増幅するばかりなんです。
2. マーケットイン型農業が今こそ求められている
一方、欧州の農業は真逆の発想。「マーケットイン」=売るために作るというビジネスモデルが主流になっています。
マーケットインとは、簡単に言えば**“お客さんが何を欲しがっているかを先に考える”という姿勢。 農業でいえば、「誰に・いつ・何を・どれだけ売るか」**を先に明確にし、それに合わせて生産するやり方です。
欧州では卸売市場が衰退し、契約栽培が主流に
ヨーロッパでは、すでに多くの国で卸売市場の役割は小さくなり、契約栽培に移行しています。
スーパーや加工業者が農家と直接契約を結び、
- 何をどれだけ作るか
- いつ納品するか
- 価格はいくらか
といった内容を事前に決めて、生産と販売の両方を“見える化”しています。これにより、生産者は安心して栽培でき、買い手も安定供給を受けられる。どちらにとってもメリットがある仕組みです。
こうした契約栽培を支えているのが、Greenyard(ベルギー)やFrutura(オーストリア)などのアグリゲーター型企業です。
彼らは生産・物流・品質管理・販売予測を一体化させ、農家と小売の“間”を支えています。
日本の構造は「いい面」もあるが…
もちろん、日本の卸売市場が完全に悪いというわけではありません。
需給調整や品質基準、流通インフラとして一定の役割を果たしてきたことは間違いないです。
ですが、問題はそこに依存しすぎていること。
自由競争がなく、「売れるかどうか」が市場任せになってしまう。
しかも、市場は農家の都合ではなく、買い手や天候によって価格が動くため、経営のコントロールが極めて難しい。
規模拡大しても、その利益構造が市場価格の波にさらされていれば、企業としての安定性に欠けてしまうのです。
マーケットイン型農業の導入は、日本の農業を「感覚や経験の世界」から「経営と戦略の世界」へ引き上げる、大きな転換点になると私は思っています。
3. 海外の成功例に学ぶ
◯ Greenyard(ベルギー)
欧州大手の青果流通企業で、年間200万トンの取扱量。
契約栽培により、生産者に「いつ・何を・どれだけ作るか」が明確に伝えられ、計画的な生産が可能になります。
◯ Frutura(オーストリア)
農場の買収と統合により、物流から品質管理まで一体化。
スーパーや外食チェーンと密に連携し、日々安定した供給を実現しています。
これらは単に「たくさん作る」ことを目的にしているのではなく、**“市場の声に応じて作る”**という徹底したマーケットイン型の農業です。
4. 日本で契約栽培が進まない背景
日本でマーケットイン型農業がなかなか広がらないのは、以下のような要因が重なっているからです。
- 卸売市場依存の構造
国内の流通の多くが市場経由。スーパーは市場価格を見て仕入れを決めるため、事前に契約する文化が育ちにくい。 - 農家の不安
「本当に売れるの?」「天候で失敗したらどうなる?」という不安が根強く、契約に踏み切れない。 - 小売の予測力不足
POSデータの活用や販売予測の体制が弱く、「何を・どれだけ・いつ必要か」が明確に把握できていない。
これらの課題をクリアしなければ、マーケットイン型の仕組みは根付かないでしょう。
5. 小さく始めて、モデルを確立する
そこで、いきなり全国規模で展開するのではなく、まずはスモールスタートでモデルづくりを始めるのが現実的です。
- 農家5~10軒と地元スーパーや飲食店1〜2社をマッチング
- 品目はキャベツ・にんじん・ほうれん草など安定供給しやすいものから
- 年間100〜150トンの流通量を目安に
- 法人設立+契約管理+ITツール導入で初期コスト500〜1000万円程度
- 運営は専任コーディネーター1名+補助1名で月70〜100万円前後
この段階で「売れる作物を作る」経験値を農家・小売双方が積むことで、
マーケットイン発想の土台が育っていきます。
6. 成功すれば、全国展開・年商数十億円も見える
このモデルがうまくいけば、数年で以下のような展開も見えてきます。
- 契約量を年500トン→数千トンへ拡大
- 取引先を中堅スーパー、外食チェーン、給食センターへと広げる
- IT管理や物流システム導入により、人手に頼らない体制を構築
- 高付加価値品による輸出や、個人向けEC・サブスク型販売にも進出
収益モデルは、流通額の5~10%の手数料+付帯サービス収入(品質保証・物流・IT管理など)。
単なる仲介ではなく、“農と市場の間を支える仕組み”としての価値が高まります。
7. 実現に向けた課題と対策
成功のカギは、次のような課題にどう向き合うかです。
- 物流の効率化:地域ごとの集荷・共同配送体制を確立する
- 農家との信頼構築:契約の柔軟性・収量保証・技術支援の仕組みを整える
- 需要との連携強化:POSデータの分析と共有、販売予測の定例化
- 余剰・品質対応:加工・直売・給食などへの多様な転用策を確保
まとめ|農業を“作る”から“売る”へ
- 日本の農業は「プロダクトアウト=作ってから売る」構造が主流
- 欧州では「マーケットイン=売れるものを作る」契約栽培が一般的
- 小規模から始めれば、日本でも実証可能で全国展開・輸出も視野に入る
- 成功のカギは、農家・小売・消費者をつなぐ“中間支援機能”の強化
日本の農業が本当に変わるためには、**「作れるから作る」ではなく、「売れるから作る」**という視点が必要です。
それこそが、マーケットイン型農業の本質であり、農業をビジネスとして持続可能にする第一歩です。
草男として、そんな未来を信じて、これからも一歩ずつ実践していきたいと思います。
コメント