有機栽培とは?慣行農業との違い・本当に安全なの?【徹底解説】

農業

こんにちは、福井県で農業と雑草を学んでいる大学生の草男です。
今回は「有機栽培」について掘り下げていこうと思います。

スーパーに行くと「有機野菜」や「オーガニック」と書かれた商品をよく見かけますよね。なんとなく「体に良さそう」「安全そう」と思われがちですが、実際にどういう栽培方法なのか、普通の農業(慣行農業)と何が違うのかをきちんと知っている人は意外と少ないんです。さらに、「無農薬野菜」と書かれた商品を見たことがあるかもしれませんが、実はその表記は現在は禁止されているって知ってました?

この記事では、有機栽培の定義や基準、有機JAS制度、慣行農業との違い、そして“本当に安全なのか?”という疑問まで、わかりやすく解説していきます。


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有機栽培とは?

有機栽培(Organic Farming)は、化学的に合成された肥料や農薬を使わず、自然の循環を重視した栽培方法です。

20世紀に入り、化学肥料や農薬の登場で農業の生産力は飛躍的に高まりました。しかしその一方で、DDTのような強い残留性を持つ農薬が環境や人体に悪影響を及ぼすことが分かり、規制されるようになった歴史があります。そこから「環境にやさしく、持続可能な農業を目指そう」という流れで、有機栽培が注目されるようになりました。


有機JAS制度とは?

日本では「有機農産物」と名乗れるのは、農林水産省が定める有機JAS規格に適合し、認証を受けたものだけです。

基準の一例:

  • 種まき・植え付けの2年以上前から、化学肥料や農薬を使っていない畑で栽培
  • 多年生作物は収穫の3年以上前から化学肥料・農薬を不使用
  • 遺伝子組換え技術は使わない
  • 堆肥などによる土づくりを基本とする

この条件を満たして初めて、有機JASマークを表示して販売できます。つまり「有機栽培」と言えるのは、しっかりと国のルールをクリアした農産物だけ。農家さんが独自に「有機っぽいから」と言って出すことはできません。

出典:農林水産省

特別栽培農産物との違い

「有機」と並んでよく見るのが「特別栽培農産物」という表示です。

  • 有機農産物 → 原則として農薬・化学肥料を使わない
  • 特別栽培農産物 → その地域の慣行栽培の基準よりも農薬や化学肥料を半分以下に減らした栽培

つまり、「完全にゼロ」を目指すのが有機栽培、「できるだけ減らす」のが特別栽培。どちらも環境や消費者を意識した取り組みですが、厳しさの度合いが違います。


有機栽培で使える肥料と農薬

「有機=肥料も農薬も一切使わない」と思う人もいますが、実際には使えるものがきちんと決められています

使える肥料(例)

  • 堆肥(家畜ふん、落ち葉など)
  • 油かす、魚かす
  • 骨粉(リン源として)
  • 木灰、苦土石灰など

使える農薬(例)

  • 天然物:酢、重曹、なたね油乳剤
  • 生物由来:BT剤、天敵昆虫
  • 無機物:硫黄剤、石灰硫黄合剤、銅水和剤

つまり「自然由来で環境負荷が少ないとされるもの」に限り、例外的に使用が認められています。


慣行農業との違い

項目有機栽培慣行農業
肥料有機質中心(堆肥など)化学肥料中心
農薬原則禁止、一部のみ使用可必要に応じて使用
認証制度有機JAS認証が必須特になし
収量不安定になりやすい安定して多収可能
環境影響小さいとされている場合により化学肥料や農薬の流出リスクあり

慣行農業は効率的で収量も安定していますが、環境への負荷や消費者の不安感が課題。一方で有機栽培は環境にやさしい(後述)けど、生産コストが高く、収量が不安定という弱点があります。


有機栽培は本当に環境に優しいのか?

有機農業というと「環境にやさしい」「人にも安全」といったイメージが先行しがちです。たしかに、合成肥料や農薬の使用を制限しているため、一定の環境負荷を減らせる可能性はあります。ですが、実際のところは「常に有機=環境に優しい」とは言い切れません。

有機質肥料の大量投入による問題

化学肥料を使わない代わりに、堆肥や油かすなどの有機質肥料を大量に入れると、窒素やリンの過剰供給につながり、水質汚濁や温室効果ガス(N₂O)の排出を招くことがあります。つまり「化学肥料を使っていない=環境にやさしい」と単純に言えるわけではないんですね。

許可された農薬の使用

有機栽培では原則農薬を使わないものの、天然由来の資材や銅・硫黄などの無機物由来の農薬は使用が認められています。これらは「合成農薬ではない」というだけで、使いすぎれば土壌や水質への蓄積が問題になることもあります。

慣行農業だからこそ“安全”な面もある

逆に、慣行農業で使われる合成農薬や化学肥料は、法律で厳しく規制され、残留基準や使用量、使用方法が細かく定められています。そのため、むしろ取り締まりがあるからこそ安全性が担保されているという見方もできます。

まとめると…

有機農業は「合成肥料や農薬を避けて自然の力を活かす」という点では魅力がありますが、それだけで必ず環境に優しいとは限りません。慣行農業もまた、精密施肥や低農薬技術を組み合わせれば、環境負荷を下げることは十分に可能です。

つまり、有機か慣行かで“善悪”を決めるのではなく、実際の現場でどれだけ丁寧に管理されているかが、本当の意味での環境へのやさしさにつながるんやと思います。


有機栽培は本当に安全なの?

ここでよくある疑問が「有機栽培=完全に安全なのか?」という点です。

  • 有機栽培でも一部の農薬は使われている
  • 「自然由来=安全」ではなく、使い方次第でリスクもある
  • 有機JAS認証があっても、病害虫のリスクをゼロにすることはできない

つまり、有機だから100%安全というわけではなく、**「基準に基づいて環境負荷を減らしている農産物」**と理解するのが正解です。


「無農薬」という表示は禁止されている  

昔は「無農薬野菜」といった表示がよく見られましたが、現在は法律で禁止されています。理由は、

  • 農薬を「一切使っていない」と誤解を与える
  • 有機栽培でも認められた資材を使う場合がある
  • 表示が氾濫して消費者の判断を混乱させた

そのため、今は「有機JAS」「特別栽培」という表現に統一されています。


まとめ

  • 有機栽培は「農薬や化学肥料を原則使わず、自然の力を活かした農業」
  • 有機農産物と名乗れるのは、有機JAS認証を受けたものだけ
  • 特別栽培農産物は「農薬・化学肥料を半分以下」にした農産物
  • 有機栽培=完全に安全ではなく、一部農薬や資材は使用可能
  • 「無農薬」という表現は誤解を招くため、現在は禁止

消費者から見ると「有機=体にいい」というイメージが先行しがちですが、実際には法律や国際基準に基づいた一つの栽培方法にすぎません。農業を学ぶ立場からすると、どちらか一方が優れているのではなく、状況に応じて有機・慣行をバランス良く使い分けていくことが大事やなと思います。

参考文献

農学基礎シリーズ野菜園芸学の基礎 篠原温 農文協


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