■ 導入
家庭菜園でも農業でも、育苗の時期になると必ず耳にする言葉が「徒長(とちょう)」。
苗がヒョロっと伸びてしまい、「なんか弱そうやな…」と感じた経験のある人も多いと思います。
見た目の問題だけでなく、徒長はその後の生育や収穫量にも大きく影響する、かなり重要な現象です。
しかし「とりあえず光が足りへん時になるんやろ?」ぐらいのざっくりした理解で終わってしまうことも多く、原因を正しく理解できていないと、毎年同じ失敗を繰り返してしまいます。本記事では、徒長の本当の意味から、原因、対策、現場での判断基準まで、初心者でもしっかり理解できるよう丁寧に解説します。
■ 徒長(とちょう)とは何か
徒長とは、植物の茎が必要以上に長く伸び、細く・弱々しい形になってしまう状態のこと。
特に育苗期に起こりやすく、野菜苗がヒョロヒョロと間のびしてしまうあの現象です。
徒長した苗は見た目が頼りないだけでなく、
- 倒れやすい
- 葉が小さく、光合成能力が低い
- 活着(根が定着すること)が遅れる
- 病害に弱くなる
など、その後の生育にさまざまな悪影響を及ぼします。
つまり徒長は「ただ見た目が悪い」ではなく、収量を落とし得る重大な問題なのです。
■ 徒長が起こる主な原因
徒長のメカニズムは、一言で言えば「光不足+温度過多+過湿」の環境が揃ったときに起こります。
ただし、それぞれの要因がどのように植物に影響するかを理解しておくと、改善がぐっと簡単になります。
① 光量不足(最も多い原因)
植物は光を求める性質があるため、光が弱い場所では茎を伸ばして光を探そうとします。
これが徒長の根本原因です。
- 室内育苗で日当たりが弱い
- 曇天が続く
- LEDライトの照度が不足
- トレイ同士が影を作っている
このような環境では徒長が発生しやすくなります。
② 地温・気温が高すぎる
温度が高いと生育スピードが上がりますが、光量が追いついていない場合、茎だけが先に伸びて徒長します。
特に春先の育苗では、
「昼は暖かくてよく育つけど、光が弱いから徒長しやすい」
という現象が起こりがちです。
③ 水分過多
水を与えすぎると根が酸欠気味になり、茎が柔らかくなって徒長が進みます。
過湿状態は病害のリスクも高めます。
④ 栄養バランスの偏り
窒素過多や、育苗土の肥料分が強すぎる場合も、茎だけが伸びやすくなります。
⑤ 密植
播種密度が高いと株同士が影を作り合い、互いに光を奪い合う環境になります。
結果として、上へ上へと無理な伸び方をして徒長してしまいます。
■ 徒長を見分けるポイント
初心者でも判断しやすいよう、現場で使えるチェックポイントをまとめます。
- 茎が細くて長すぎる
- 葉と葉の間(節間)が極端に広い
- 苗が横に倒れやすい
- 葉の色が薄く、弱々しい
- 夜間や曇りの日に顕著に伸びてしまう
特に節間の広がりは重要で、これが徒長の典型的サインです。
■ 徒長すると何が問題なのか
徒長は一見「ちょっとひょろっとしてるだけ」に見えますが、問題は根深いです。
● 倒れやすく風に弱い
茎が細いため、風や衝撃で折れたり倒れたりしやすくなります。
● 活着が遅れる
徒長苗は根の発達が弱く、本圃に定植しても根がなかなか張りません。
● 収量が落ちやすい
生育初期の弱さは、のちの着果数・根張り・樹勢に響きます。
● 病気にかかりやすい
徒長株は細胞が柔らかく、病害に対する抵抗力が下がっています。
特に農家さんが嫌がるのは「生育のスタートが出遅れる」こと。
スタートラインでつまずくと、後からどれだけ頑張っても巻き返しが難しくなります。
■ 徒長の効果的な対策方法
徒長を防ぐには、原因の逆を押さえることが基本です。
① 光量をしっかり確保する(最重要)
- 育苗棚は直射日光の近くに置く
- 植物用LEDライトで補光する
- トレイの配置を工夫して影を作らない
- 曇りの日は補光時間を延ばす
光量が十分あれば、徒長の大半は防げます。
② 温度管理を適正に(特に夜温)
温度が高すぎると徒長しやすいため、
- 夜温を下げめにする
- 日中の過剰なハウス内温度上昇を防ぐ
- 換気をしっかり行う
など、温度と光のバランスを取りましょう。
③ 水やりを控えめに
育苗期は「乾かし気味」が基本。
表土が乾いてから控えめに水やりするのがコツです。
④ 肥料の効きを調整する
育苗土の肥料分が強すぎる場合は、
薄めの土に変更するのが有効です。
⑤ 播種は適切な間隔で
密植を避けるだけで徒長リスクは大幅に減ります。
間引きも早めに行うと◎。
■ 徒長してしまったときのリカバリー方法
徒長苗は基本的に完全には元に戻りませんが、ある程度の回復は可能です。
● ① 補光して株を強くする
LEDライトを近づけ、光量を確保するだけでかなり改善します。
● ② 温度を下げて成長スピードを落とす
光に見合った生育スピードに調整され、節間が締まりやすくなります。
● ③ 早めに定植する
徒長が進みすぎる前に本圃へ移し、根の張りを促す方法です。
ただし地温が低いと逆効果です。
● ④ 深植えしすぎないよう注意
徒長苗を深植えしても改善にはならず、逆に根腐れリスクが高まることがあります。
■ 関連用語
- 育苗
- 定植
- 補光
- 徒長苗の管理
- 温度管理(夜温)
- 節間とは
■ よくある質問(FAQ)
Q1. 徒長は初心者でも防げる?
適切な光量が確保できれば十分防げます。育苗期の置き場所が最重要ポイントです。
Q2. 徒長苗は定植しても育つ?
育ちますが、活着が遅れ、生育初期にハンデを背負う形になります。
できれば徒長しない苗を育てることを目指しましょう。
Q3. 徒長は光だけが原因?
主因は光不足ですが、温度過多・水分過多・肥料過多など複数の要因が絡むことが多いです。
■ まとめ
徒長とは、茎が細長く伸びてしまう現象で、育苗期に最も起こりやすい問題です。
原因の大半は光不足ですが、温度管理や水やり、肥料、密植など、多くの環境要因が重なることで起こります。徒長した苗は弱く、倒れやすく、活着が遅れるため、収量にも影響します。
育苗を成功させるには「光を十分に与える」「温度を上げすぎない」「水を控えめに」が基本。
徒長を防げると、苗の強さが一気に安定し、後の栽培管理もぐっと楽になります。



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